【メディアは大げさ?】話題ほど日本でAIが使われていない理由

ここ最近、「AI」という言葉を聞かない日はありません。

またそれと同時に聞こえてくる声は、AIを褒める意見が圧倒的に多い印象です。

「ChatGPTで○○ができる!」

「AIによってイノベーションが加速する!」

「大量の仕事がAIに置き換わる!」

2022年末のChatGPT3.5リリース以降、このようなAIを褒め称える同じような言葉をずっと耳にしています。

また、「これからAIによって〜」と枕詞さえつけておけば、誰しも専門家のそれっぽく聞こえるから不思議なものです。

最初にお断りしておきますが、私は「今のAIは過大評価されすぎ」だと感じています。

筆者である私自身、AI相談.comというAIチャット相談サービスを運営している、“AI擁護側”であることは予め断っておきますが、それでも今のメディアのAIの持ち上げ方は行き過ぎです。

もはやメディアの反応を見ていると、「AIってまだまだ全然使えなくない?」なんて感想を述べるだけで、四方八方から反対意見が飛んでくるような雰囲気です。

「あなたが使いこなせていないだけ」

「海外ではすでに日常的に使われている」

「少なくともあなたよりAIの方が頭いい」

AIに否定的な意見を口にしようものなら、おおよそこのような反論をたくさん聞かされるような勢いです。

しかし、本当に現時点のAIはそこまで革新的なものなのでしょうか?

まずは、本当にAIが革新的かはともかく、現時点で人々がAIにどのような印象を抱いているか確認しておきます。

NRIの調査(2023年6月)によれば、人々のAIのイメージは、「業務効率・生産性を高める」「暮らしを豊かにする」という意見が上位となっています。

引用元:アンケート調査にみる「生成AI」のビジネス利用の実態と意向 https://nri.com/jp/knowledge/report/lst/2023/cc/0613_1

他にも「仕事が奪われる」というネガティブな意見も上位にあるものの、それだけ多くの人々がAIが多くの可能性を秘めたものと認めているのでしょう。

具体例として、サイバーエージェントがAIを活用し業務を6割削減することを発表するなど、大手企業でも生成AIの活用にチャレンジする企業が増えてきました。

しかし、私自身、様々な経営者や企業関係者の方とAIについてお話しさせていただく機会がありますが、メディアで取り上げられるほどAIの活用に積極的ではない印象です。

こちらのデータをご覧ください。

PwCの調査(2023年5月)によれば、60%の企業が「AI活用に関心あり」と回答した一方で、実際にAI活用に取り組んでいる企業は8%にとどまっています。

引用元:生成AIに関する実態調査2023 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/generative-ai-survey2023.html

これは私の肌感覚にも整合的です。

企業の方々とお話しさせていただくと、皆さんAIに興味関心はあるのですが、現時点で業務プロセスにAIを組み込むことを本気で検討している人はごく少数派です。

そこで皆さんに「なぜAIを使わないのですか?」と質問すると皆さん意外と同じ答えが返ってきます。

それは、

「AIってまだまだ全然じゃない?」

という否定的な意見です。

これだけ連日AIが世間を賑わせているのに、「AIが使い物にならない」というのは一体どういうことなのでしょうか?

ちなみにソフトバンクの孫さんは生成AIを毎日使っているといい、「ChatGPTをまだ使ってない人は人生を悔い改めたほうがいい」とまで発言しています。

このように、メディアや一部のリーダーたちはAIを称賛する一方で、その他大勢の企業や人々はAIはまだまだ使い物にならない、と考え意見が割れています。

一体どちらの意見が正しいのでしょうか?

この謎を解くヒントが次のデータに表れています。

PwCの調査で、業種・職種別に生成AIに対するイメージを聞いたところ以下のようにはっきりと明暗が分かれました。

【AIに肯定的+】

・DX/IT部門、経営企画

・研究開発、事務アシスタント

【AIに中立的】

・顧客サービス

【AIに否定的−】

・医療系専門職

・建設、物流、不動産

引用元:生成AIに関する実態調査2023 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/generative-ai-survey2023.html

なぜこのような差が業種によって生まれるのでしょうか?

結論、私はこの差が「対人業務の有無」によって生まれていると考えます。

AIに肯定的な業種の「DX/IT、経営企画、研究開発、事務アシスタント」はどれもPCやデータを活用した知的労働に分類される業種です。

資料作成や文章ライティングなど、このような業種が生成AIを活用するイメージは非常に想像しやすいです。

また、ネットやメディアの活用も長けているため、「AIは便利」という発信を日々行なっている人も多いでしょう。

現状、AIに肯定的な人々はこうした知的労働に従事しており、ITリテラシーが高く、彼らの意見があたかもマジョリティーのように注目されていると思います。

ちなみに、一般的に知的産業と言われる業種の就業者数を見るとさらにわかりやすいです。

全労働者のうち、知的産業と言われる情報通信業(4%)、学術研究(3.8%)、金融・保険(2.4%)の3つを足し合わせると約10%となります。

これを踏まえると、先ほどデータで示した「8%の企業しかAIの活用に取り組んでいない」という状況にも納得がいきます。

日本はITや学術分野の世界競争に完全に出遅れたため、“そもそもAIと相性のいい業界が少ない”というのが現実でしょう。

引用元:早わかり グラフでみる労働の今 産業別就業者数 https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/chart/html/g0004.html

また、就業者グラフを確認すると、日本の労働者は卸売・小売(15.5%)、製造(15.5%)、医療・福祉(13.5%)、建設(7.1%)、サービス業(6.9%)の順に多くなっています。

ここで思い出していただきたいのですが、AIに中立、もしくは、否定的な業種は「顧客サービス、医療、建設、物流、不動産」でした。

これはAIに否定的な業種とほぼ合致しており、日本企業で働く大半の人々にとってAIは相性が悪いことが伺えます。

つまり、AIを賛美する人々はネットやITリテラシーの高い約10%の知的労働業種を中心に属しており、私たちは日々彼らの発信を目の当たりにするため、あたかもそれがマジョリティーの意見であるかのように感じてしまいやすいです。ですが実際に彼らはマイノリティーです。

一方、日本の圧倒的多くの人々は対人業務が多い小売業、製造業、医療、サービス業に従事しており、AIとの相性は悪く、「AIは使い物にならない」と考えているほうが自然です。日本の労働者の8割がこれらの業種に属しているのですから、こちらの方がマジョリティーの本音でしょう。

これが、「AIはSNSやメディアで称賛されているが、現実にはあまり誰も使っていない」という違和感の正体であると私は考えています。

少数の意見があたかもマジョリティーのように聞こえる現象はネットの世界ではよくあることです。

しかし、IT界隈が生成AIを使ってイノベーションを本気で起こそうと思うのであれば、むしろサイレントマジョリティーに耳を傾けることが一番大切ではないでしょうか。

まとめ

最近、SNSやメディアの一部で、AIを使わない人々に対し、情報弱者のように扱う論調が増えていることは残念でなりません。

本来、ITやテクノロジーは人々の生活をより豊かにすることが目的であったはずなのに、気づけばそれを使いこなすこと自体が一種のステータスとなってしまい、マウンティングに使われるのはとても悲しい現実です。

それぞれの国家、地域、産業、企業、人々にはそれぞれ固有の問題があり、それぞれ解決策は異なります。

「世界のスタンダードはこれだ」と押し付けることは無用な反発と抵抗を招き、むしろIT化が遅れてしまうという皮肉な状況を生むだけです。

むしろ、その固有の問題をよく観察し、解決策を提示する方が大きなビジネスにも発展し、より良い社会に貢献できるのではないでしょうか。

きっと生成AIは今後数年のうちに飛躍的に進化していくでしょう。そして、それぞれの産業に適したAIの活用法や新ビジネスを提示できた人のみが起業で成功していくことは明白です。

「AIによってあなたの仕事が消える」「今AIをまだ使ってないのはやばすぎる」と煽るだけの人は皮肉にもサイレントマジョリティーのペインを見逃し、大きなチャンスを掴み損ねと思います。

AIがいくら革命的だからといっても、無理やり押し付けるのではなく、自然と使ってもらえる便利なサービスが今後たくさん生まれていくといいですね。

私自身も、目的と手段を履き違えることのないよう、自戒を込めて記事にさせていただきました。

参考文献

・早わかり グラフでみる労働の今 産業別就業者数 https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/chart/html/g0004.html

・まだChatGPTを使ってない人は「人生を悔い改めた方がいい」――孫正義節が炸裂 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2310/04/news175.html

・生成AIに関する実態調査2023 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/generative-ai-survey2023.html

・サイバーエージェント、生成AIで業務6割減 開発・採用に https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1615E0W3A011C2000000/

・アンケート調査にみる「生成AI」のビジネス利用の実態と意向 https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2023/cc/0613_1

・ChatGPT、世界こう変えた 10の数字で振り返る公開半年 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2518X0V20C23A5000000/

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