AIはアニメーターの敵?味方?変化を迫られるアニメ制作業界
AI(人工知能)の急激な進歩により、あらゆる業界において人手不足の打開策としての期待が高まっています。
無論、アニメ業界もその例外ではありません。
今回は、生成AIがアニメ業界にどのような影響を与えるのか考察していきます。
1. アニメ業界の課題は『人材不足』
日本のアニメ業界においても人材不足は深刻な悩みのタネです。
アニメ制作においては、「中割り」という業務が大きな負担となっており、その業務を担うアニメーターが不足しているのです。
「中割り」とは、滑らかなアニメーションを作るために必要な原画と原画の間を埋める絵を描く作業のことです。
30分間のアニメ1話当たり、3500~4000枚の中割りを描く必要があり、1枚を完成させるのに数時間かかることもあるそうです。
アニメーターの給与は歩合制の場合が多く、時間をかければかけるほどアニメーターの時給は下がっていくという構造も少なからず影響しているでしょう。
一つのアニメを作るのにアニメーターが200人必要と言われており、日本では年間に300本近くの作品が制作されています。
単純計算でアニメーターが6万人必要ですが、日本にはアニメーターが5000人程しかいないためアニメ業界の人手不足が深刻化しているのです。
2. 大手アニメ制作会社でも始まるAI導入
このような課題を解決するためにアニメ制作の現場の多くでAI技術の導入が始まっています。
実際にNetflixのアニメ作品「犬と少年」では、背景画の部分において画像生成AIが活用されていました。
AIの活用というと、「Midjourney」や「Stable Diffusion」といった画像生成AIにプロンプトを入力して、画像の出力を待つことを想像される方も多いと思います。
しかし、AIがクリエイターの望み通りの画像を作ってくれることはほとんどありません。
クリエイターの構想する絵とAIが出力する絵に大きな差があるため、クリエイターが最初にレイアウトを作り、それをAIに読み込ませてから絵を生成します。
そこからさらに、人の手で絵を編集し、初めてアニメに使えるクオリティに仕上がります。
画像生成AIにおいても、著作権侵害のリスクから、独自で作り上げた画像を学習ソースとして学習させたAIを使うのが一般的です。
東映アニメーションでもAI開発を行っている株式会社Preferred Networksと協同で映像制作を行い、長崎県佐世保市を舞台とした短編アニメ『URVAN』の背景美術の作成を行いました。
(引用元:東映アニメーション株式会社 PRtimes記事)
↑上の画像が素材写真で、下の画像が素材写真をサイバーパンク風にAIが編集したものです。東映アニメーションが「Scenify」と呼ばれるAIを活用して生成しました。
引用:東映アニメーションとPFN、AI技術によるアニメ制作効率化の実験的取り組み共同で実施実験映像『URVAN』の背景美術制作にPFNが開発するScenifyを活用
3. AIの導入にあたって、視聴者からの支持が課題に
AIによる自動作成の仕組みが広く普及すれば、ネックとなっている業務が減り、人手不足の軽減が期待できます。
しかし、AI導入にも様々な課題があり、その中でも特に「AIに対するイメージ」が導入の妨げになっています。
日本では、生成AIの学習に必要な元のデータの活用は「著作権者への不利益は通常生じない」という考えが文化庁から発表されています。
しかし、日本アニメフィルム文化連盟が発表した調査によると、アニメ業界においてAI技術導入への期待は高いものの、「一部または全面的に規制すべき」との声が過半数以上あり、AIの導入を反対する声が多いことが明らかになりました。
(引用元:一般社団法人 日本アニメフィルム文化連盟 PRtimes記事)
上のグラフは、3854人を対象に行った「著作権者の意に反して創作物を生成AIに利用する行為の規制について、あなたはどう考えますか?」というアンケートの結果です。
アンケートに答えた方の87%以上が規制に賛成をしているようです。
引用:アニメ業界を対象とした生成AIに関する意識調査の結果
AIの導入については、法的なリスクを考慮することに加え、世間の反応を見て判断することも必要とされています。
Netflixの「犬と少年」に関しても、AI導入に非難の声が挙げられていました。
4. アニメ業界に必要なのは「人を感動させられる創造性」
近い将来、AI技術の導入が進むと、アニメ制作が効率化されて人手不足の課題が軽減されるかもしれません。
しかしそれ以上に、アニメには観ている人を感動させるような創造性あふれる表現が必要であり、そんな創造性を持つアニメーターを育てることが必要です。
AIは過去のデータを参照して作品を生成することはできますが、自動化ばかりが進むとアニメ産業が持っていた創造性そのものを弱体化してしまう恐れがあります。
アニメ業界が目指すべきは、アニメーターが抱えている負担を軽減し、感動できるアニメを作るためのクリエイティビティを発揮できる環境を作ることです。
AIによる作業効率化を推進するとともに、AIやソフトにはできない高度で人間味あふれる仕事をこなせるアニメーターを増やし、アニメ業界そのものの生産性を高めることが課題解決への近道かもしれません。
参考文献
・過酷なアニメ制作の現場、AIで救えるか 「動画マン」の作業を自動化、DeNAの挑戦
・Netflixが「画像生成AIでアニメ制作」してわかったAIの限界…『犬と少年』で挑戦したもの
・アニメ業界を対象とした生成AIに関する意識調査の結果
・Netflix、背景に画像生成AIを使ったショートアニメ公開 作業効率化の実験も海外ファンは非難の声
・「アニメの絵を自動で描く」AIが出現――アニメーターの仕事は奪われるのか?
・東映アニメーションとPFN、AI技術によるアニメ制作効率化の実験的取り組み共同で実施実験映像『URVAN』の背景美術制作にPFNが開発するScenifyを活用
・AIと著作権 令和5年6月 文化庁著作権課