梶裕貴氏の音声AI「梵そよぎ」爆誕!声優と著作権の将来を考察
生成AIの発展により、文章ライターやイラストレターなど、あらゆるクリエイティブ・ワーカーがAIに取って代わられることを危惧しています。
最近では、音声AIの台頭により声優の利益侵害も社会問題となりつつあります。
2024年3月にOpenAIが発表した音声生成AIモデル「Voice Engine」は、わずか15秒ほどの音声サンプルを与えるだけで話し手の声をAIで再現することができます。
最近YouTubeで話題になっている「推しに歌わせてみた(好きな声優・俳優等の声でカバー曲を作成)」シリーズも、これらの音声生成AIが使用されています。
声優からすれば、自身の声が勝手に思いもしない使われ方をされ、ましてやそれによって無関係な第三者が不当に利益を得ていると聞けば、心中穏やかではないでしょう。
この記事では、音声生成AIが声優を脅かしている実例に着目しつつ、今後、生成AIと声優がどのような関係(競合か協業か)となっていくのか考察していきます。
1. 【実例】生成AIが声優業に与えている影響
音声生成AIが声優業に与えている影響について、実例を交えて紹介します。
① 人気声優、梶裕貴氏のAIカバー曲が話題に
アニメ「進撃の巨人」では主人公エレン・イェーガーの声優を務めたりと大活躍中の梶裕貴氏の声を生成AIで再現し、カバー曲を歌わせた動画がYouTubeで話題となりました。
本件は、NHKのクローズアップ現代でも取り上げられ、関連取材の中で梶裕貴氏ご本人が以下のようなコメントを残されています。
声優は「声を使ってお芝居をする仕事」ですが、実際には声だけを提供しているわけではなくて、キャラクターに魂や命を吹き込むという覚悟と責任で作品と向き合っています。
僕自身は、そのキャラクターと「一緒に生きている」それくらいの感覚があります。ですので、それを表面だけなぞって別の形でアウトプットされてしまうというのは、役者として歯がゆいというか悔しい、複雑な思いがあります。
(NHK、『「進撃の巨人」主人公エレンの声優・梶裕貴さん 生成AIとの向き合い方を語る』より引用)
これだけのコミットメントと情熱で仕事をされている声優の方からすれば、いとも簡単に自身の声を「模倣」してくるAIには、不気味さと苛立ちを覚えずにはいられないでしょう。
② 名探偵コナンに歌ってもらった
2023年7月、TikTokに「コナン君に歌ってもらった。」と題した動画がアップロードされました。
人気アニメ「名探偵コナン」(CV:高山みなみ氏)の声をAIで模倣して、カバー曲を歌わせた動画は、またたく間に注目を浴びました。
高山氏の所属事務所「81プロデュース」曰く、同動画における音声利用は「許可していない」そうです。
また、同社の常務取締役である百田英生氏は事態を深刻に捉え、以下の通りコメントしています。
「今後、AI音声が映画やアニメのセリフの吹き込みなどに無断利用されるような事態にならないか警戒している。AIの利用について、まずは業界でルール作りを進めなければならない」
(読売新聞オンライン、『コナン君に「#歌わせてみた」流行曲、実はAI偽音声…困惑する声優たち「対処しようがない」』より引用)
①の梶裕貴氏の事例のように、声優の利権が侵害されかねない事案と言えるでしょう。
③ エマ・ワトソンの声でヒトラー著書を朗読
2023年1月、とある音声ファイルがアメリカのネット掲示板「4chan」で注目を集めていました。
「世界的女優であるエマ・ワトソン氏の声で、ナチス指導者アドルフ・ヒトラーの著書『わが闘争』を読み上げる」というものです。
ちなみに、「わが闘争」はヒトラーのユダヤ人差別主義的思想を露骨に表現した著書であり、その刺激的な内容を朗読させられたエマ・ワトソン氏への風評被害は想像に難くありません。
音声生成AIには、アメリカのスタートアップElevenLabsの「Prime Voice」が使用されました。
これはかなり悪質な事例ですが、他人の声を悪用して本人が絶対に言わないであろうことを言わせたフェイク動画を簡単に作ることができます。
本質的には、AVにおけるディープ・フェイク動画と同類の問題であると言えるでしょう。
2. 声優の「声」は著作権で守られない?
上記の事例から、生成AIが声優業にもたらす悪影響としては、主に以下2点に集約できるでしょう。
- 無断で声優の声を再現した収益性コンテンツによる、声優の利益・権利の侵害
- 無断で声優の声を悪質なコンテンツに使用されることによる、声優の名誉毀損
そこで上がる疑問としては、そもそも声優の「声」は法律的に保護されていないか?という点かと思います。
例えば、同じように生成AIが得意とする文章生成と画像生成の分野においては、執筆物もイラストも著作権の対象となるため、一定の著者利益が保護されています。
2024年5月現在、日本の法律において「声」は著作権の対象として直接的には認められていません。
音声生成AIはまだまだ新興技術であり、例えば、生成AIへの音声データ学習行為における元データの利用が著作権侵害に該当するかといった点の解釈について、議論がなされているところです。
そのため、日俳連などの関連利権団体を筆頭に、「声の肖像権」を求める活動が活発化しています。
肖像権における「パブリシティ権」では、有名人や著名人のようにその存在自体に経済的価値・利益が認められる場合は、当該個人を特定する要素にも権利が発生することが判例で認められています。
声優の「声」もこの「当該個人を特定する要素」に該当するはずなので、権利が認められるべきという主張ですね。
実際に、米テネシー州では「声の肖像権」を認める法案(通称エルヴィス法)が、2024年3月に可決されています。
3. 「梵そよぎ」に見る、声優とAIの未来
では、生成AIと敵対して声優の生身の「声」を保護してくことが正しい道なのでしょうか?
この点は、意外なことに、声優業界内でも意見が分かれているようです。
生成AIによって権利が侵害されることを懸念する声優もいれば、逆に新興技術を排斥することによる業界としての衰退を懸念する声もあるようです。
2024年5月、声優の梶裕貴氏が自身の声を自由に使える音声合成ソフト「CeVIO AI 梵そよぎ(そよぎそよぎ) トークボイス」の製品化を決定したことが話題になりました。
件のAIカバー曲問題を受けて生成AIとの向き合い方に悩みに悩んだ末に、「生成AIと共存する道」を選択することを決意されたそうです。
製品のリリースに際して、梶氏は生成AIとの向き合い方について以下のようにコメントしています。
昨今、AIとの向き合い方について、しばしば議論されていますよね。クリアしていかなければならない問題も多々あると思います。それでも私は、AIと敵対するのではなく、共存すべきだと考えています。AIという技術自体に善悪はない。あくまで、それを使用する人間側のモラルにかかっている。いま現在、無法地帯となってしまっているであろう声の権利問題、そして、生成AI業界においてのルールづくりにも、本企画を通して貢献することができたら幸いです。
(Campfire、「【梶裕貴 声優20周年|そよぎフラクタル】歌声合成ソフト『梵そよぎ』を開発したい」より引用)
筆者の個人的見解を述べるなら、やはり生身の声優だから出せる魅力があると思いますし、そういった方々の利権が侵害されるのは許し難いです。
しかし、史実として、あらゆる職種が技術の進化や文明の発展に伴い縮小・淘汰されてきた現実があります。
従来の利権の保護を図りつつ、梶氏のように新技術と共存することで新たな業界のあり方を模索していくことも必要不可欠であると感じます。
参考文献
・AIでクローン音声を生成する最新ツールが4chan民により「エマ・ワトソンの声で『わが闘争』を読み上げさせる」など悪用されまくる事態に
・「進撃の巨人」主人公エレンの声優・梶裕貴さん 生成AIとの向き合い方を語る
・コナン君に「#歌わせてみた」流行曲、実はAI偽音声…困惑する声優たち「対処しようがない」
・「本人の声とそっくりな合成音声」の悪用に対して法的権利はあるか? NTT社会情報研究所が調査
・世界を席巻!生成AI 共存のために必要なことは?
・「声の肖像権」生成AIで音楽は稼げるのか
・「AIと共存すべき」人気声優・梶裕貴 自身の声で自由にしゃべれるAIソフト発売へ 「たくさん悩んで」決断